lisanhaのPansee Sauvage

野生の思考

反訴状前半

反訴状は長いので、分けますね。

         反訴状

第1 反訴請求の趣旨
1. 反訴被告(原告)は、原告に対し、1億3000万円及びこれに対する平成29年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2. 反訴被告(原告)は、讀賣新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各全国版に、別紙謝罪広告目的1⑴記載の謝罪広告を同1⑵記載の掲載条件にて各1回掲載せよ。

3. 反訴被告(原告)は、反訴原告代理人が設置するウェブサイト

(URL:https://www.kitaguchilaw.jp/)にて、反訴原告(被告)らが別紙謝罪目録2記載の謝罪広告を、本判決確定後1年間に限り掲載することを受忍するとともに、本件判決確定後2か月以内に1か月間、松尾千代田法律事務所(送達場所)のホームページ内の反訴被告代理人西廣陽子のプロフィールページ

(URL:https://www.matsuolawoffice.com/profile/nishihiro.html) にて、同目録2記載の謝罪広告を掲載せよ。

4. 訴訟費用は反訴被告(原告)の負担とする。
との裁判を求める。

第2 事案の概要

本件は、反訴被告(原告)が、反訴原告(被告)からデートレイプドラッグを使用したレイプ被害を受けたという被害妄想を抱き、警視庁高輪警察署にて「準強姦」の被疑事実で被害届を出すと同時に、反訴原告(被告)を加害者として同被疑事実で告訴した後、東京地方検察庁が反訴原告(被告)を不起訴とし、かつ、反訴被告(原告)からの審査申立てを受けた東京検察審査会が本件不起訴処分は相当である旨の議決をした状況のもとで、反訴被告(原告)が反訴原告(被告)に対し、不法行為(準強姦被害及び強姦被害)に基づき損害賠償請求訴訟(本訴)を提起したのに対し、反訴原告(被告)が、反訴被告(原告)に対し、反訴被告(原告)が、東京検査審査会に対する上記審査請求に際して、その代理人弁護士立会のもと、司法記者クラブにて記者会見を開いて、反訴被告(原告)を被疑者とする準強姦被疑事件を不起訴にした東京地方検察庁の処分の不当性を訴えたこと、反訴原告(被告)から客観的には「強姦」被害を受けた旨の内容虚偽の手記「ブラックボックス」を出版・公表された上、各種報道機関に生出演・記者会見や、各種催事やインターネット上での意見表明等の報道活動を通じて、反訴被告(原告)による強姦被害を訴え続けられたことで、名誉・信用が毀損され、かつ、プライバシー権を侵害されたことを理由として、反訴原告(被告)が反訴被告(原告)に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき損害金の支払を請求するとともに、民法723条に基づき、讀賣新聞、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各全国版並びに被告及び被告代理人が設置するウェブサイトへの謝罪広告の掲載を求める事案である。

第3 反訴請求の原因

1.当事者

⑴ 反訴原告(被告)

反訴被告(原告)は、本件が発生した平成27年4月4日当時、48歳で、株式会社TBSテレビ(以下「TBS」という。)のワシントン支局長であった。

平成2年3月、慶應義塾大学経済学部を卒業後、TBSに入社し、同5年には、ロンドン支局に異動し、以後、ルワンダ内戦や中東紛争、在ペルー日本大使公邸占拠事件など、多くの内戦や紛争、国際政治の現場取材、次いで、本社社会部(警視庁、運輸省等)での取材経験を経て、平成12年には政治部に異動して官邸キャップ、与党キャップ、外務省キャップなどに従事してきた。この間、反訴被告(原告)は、平成19年9月12日の「安倍首相辞任」をスクープしたこと等でTBS社長賞2回、TBSテレビ社長賞3回をはじめ、報道局長賞を含め計17回以上の表彰(乙21の1~5等)を受けており、著書である「総理」(平成28年6月)及び「暗闘」(平成29年1月)は、いずれもAmazonノンフィクションランキングで一位を獲得し、平成28年4月に、週刊文春から発表した報道記事「韓国軍にベトナム人慰安婦がいた」では、大宅壮一ノンフィクション大賞最終候補作に抜擢されるなど、ジャーナリストとして活動してきた。

もとより、ジャーナリストとしての執筆経験(月刊文藝春秋、週刊文春、現代ビジネス、週刊現代、SPA!、月刊Hanada、月刊WiLL、夕刊フジ、日経BPほか)、出演(テレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京、AbemaTVDHCシアター、報道特注、NEXTEP他)、講演(マスコミ倫理懇親会、北日本政経懇話会、大和証券、日本再興会他)等のオファーも数多く受けてきた。

⑵ 反訴被告(原告)

平成27年4月4日当時、トムソン・ロイター(テレビニュース部)でインターン(無給)をしていた、ジャーナリスト志望の研修生(当時26歳・女性)で、TBSワシントン支局での無給アルバイトもしくは現地スタッフとしての就業を希望していた。

2.反訴被告(原告)の被害妄想と虚構

⑴ はじめに

反訴被告(原告)は、平成27年4月30日、反訴原告(被告)から性暴力被害を受けた旨の被疑事実を理由として、警視庁高輪警察署に出向き、被害届を提出するとともに、告訴したとのことであるが(訴状8頁10行目、甲19・97頁)、被疑事実の具体的内容は不明である。

もっとも、①当該被疑事件については、罪名が「準強姦」とされていること(甲7)、②反訴被告(原告)が随所で、薬物(デートレイプドラッグ)を利用した被害を訴えていること(甲7・5頁3行目以下、甲7添付資料[週刊新潮]23頁、甲19・66頁、同89頁)、③本件告訴事件の捜査段階で、反訴被告(原告)が、高輪署警察官の勧めで、妊娠検査の目的で受診した新百合ヶ丘総合病院のカルテによれば、同人は医師に対し「4月3日に被害」と申告していること(乙9)、④反訴被告(原告)が、週刊新潮に対し、「…『準強姦』の逮捕状が発付されました。」その捜査情報をリークしていること等の諸事情に照らし、当初、反訴被告(原告)が訴えていた性被害(被疑事実)は、平成27年4月3日深夜から翌4日の未明にかけての、薬物(デートレイプドラッグ)を利用した準強姦であったものと合理的に推認される。もし仮に反訴被告(原告)が、当初から本件訴訟で主張しているとおりの性犯罪被害を申告していたのであれば、具体的には、高輪警察署の警察官に対して、「…肩をつかまれ、再びベッドにひきずり倒された。」、反訴被告(原告)の「顔はベッドに押し付けられた状態」となり、「息ができなくなり窒息しそうになった」、「無理やり膝をこじ開けようと」された等の態様の「暴行」を受け、かつ、「乳首からの出血」、「右膝内障、右膝挫傷」等の「傷害」を生じた旨の被害申告をしていたのであれば、強姦致傷罪(旧刑法181条)の既遂で受理されたはずだからである。

ところが、その後、反訴被告(原告)は、自らの供述を変遷させ、上記深夜未明の準強姦に付加して、翌4日午前5時過ぎ頃の強姦の事実を主張するに至った(甲7添付資料24頁「…すごい勢いでベッドに顔と身体を押さえつけられました。…。何とか抵抗して2度目のレイプをされることはありませんでしたが、…」、訴状6頁、甲19・49頁以下等)。しかしながら、上記の準強姦及び強姦のいずれも、反訴被告(原告)の虚偽・虚構・妄想であって、事実に反する。その理由は次のとおりである。

⑵ 準強姦被害の虚偽性・妄想性

平成27年4月4日深夜、東京都港区白金台所在の「シェラトン都ホテル東京」(以下「本件ホテル」という。)にて、反訴原告(被告)が、反訴被告(原告)と、合意のもとで性交渉(以下「本件性交渉」という。)したことは事実であるが、当事者間の本件性交渉は、酩酊状態から醒めた反訴被告(原告)が、酒の飲み過ぎで失態を演じたことに気付いたことで、挽回を図ろうと、反訴原告(被告)に対し、意図的かつ執拗に性的交渉に向けた働きかけをしてきたがゆえに、反訴原告(被告)が、これに応じたものに過ぎない。もとより、反訴原告(被告)が、反訴被告(原告)に対しデートレイプドラッグ(薬物)を使用したことは一切ない。

ア 反訴原告(被告)の承諾について

当事者間の本件性交渉の経緯及び経過は、反訴被告(原告)の陳述書(乙4)において、具体的かつ詳細に述べたとおりである。すなわち、酩酊状態から醒めた反訴原告(被告)が、反訴原告(被告)からの叱責により、自らが醜態を晒したことに気付き、自らの失態を挽回しようと企図して、反訴原告(被告)に対し、性交渉に向けて強い働きかけ・誘惑を仕掛けてきたことで、反訴原告(被告)が、これに応じてしまったというものである。

したがって、本件性交渉は、反訴被告(原告)の承諾のもとで、これに至ったものである。このことは、①本件当日午前、反訴被告(原告)が本件ホテルで目覚めてから、本件ホテルを退出するまでの間、本件ホテルの従業員にも、関係医療機関にもレイプ被害を一切訴えていなかったことや、②反訴原告(被告)が本件当日、日本を出発してワシントンに戻ることを知っていた反訴被告(原告)が、4月6日午前11時頃、その帰還のタイミングを見計らって、反訴原告(被告)に対し、親睦と反訴原告(被告)のもとでの就職情報の提供を求める旨のメールを送信していること(甲1の15「山口さん、お疲れ様です。無事ワシントンへ戻られましたでしょうか? VISAのことについてどの様な対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです。…履歴書添付させていただきます。」)等の諸事情から明らかであるが、本件性交渉が、反訴被告(原告)の承諾のもとに行われたことを裏付ける評価根拠事実については、後で整理して再論する(後記・反訴請求原因2⑹)。

なお、反訴被告(原告)は、その後、薬物による酩酊下において、その意思に反して性交渉が行われた旨を主張しているが、本件性交渉の際、反訴被告(原告)は、酩酊状態から醒め、明確な意識・意思があったことは、反訴原告(被告)が再三述べているとおりである(反訴被告自身も、「イーク表参道」の医師に対し、自身の本件性交渉の時間帯について、「coitus(性交)AM2~3時頃」と申告していたのであるから、その間、意識があったことを自認していたのである[乙6]。)。

もし仮に反訴被告(原告)の主張を前提として、4月3日午後9時過ぎころに入店した寿司店「鮨の喜一」(以下「本件寿司店」という。)において、反訴被告(原告)が2度目のトイレに入ってから、翌4日の午前5時頃までの間の時間帯における反訴被告(原告)の記憶が「ブラック・アウト」(甲23・7頁)ないし「一過性前向健忘」(甲24・3頁)によって「完全に失われた」というのであれば(反訴被告としては、従来の供述の信用性を最低限保持するためにも、この旨の主張を貫かざるを得ないであろう。)、反訴被告(原告)としては、―「後付けの」被害感情を別論とすれば―、反訴被告自身の「記憶」を根拠としては、上記時間帯の事実関係・事実経過について、何らの主張も、何らの反論もできないことになるはずである。

イ デートレイプドラッグ(薬物)の不使用について

反訴原告(被告)は、本件当時、❶「デートレイプドラッグ」などという薬物の存在・用法について全く知らなかったし、見たこともなかった旨を一貫して主張し、❷当然のことながら、準強姦の事実を強く否認するとともに、その類の薬物の使用事実を強く否認しているところ(乙4・22頁末行以下、甲10・258頁)、❸反訴被告(原告)の方では、「デートレイプドラッグ」などという薬物が使用されたことを疑わせるに足りる何らの証拠上の根拠も、それを裏付ける客観的な状況証拠をも示していない(示すことができない)。

反訴被告(原告)は、自身が酒に強く、「寿司店で記憶を失うまでに日本酒2合を被疑者(反訴原告)とともに飲んだ程度であった。」(甲7・4頁)ことから、酩酊状態に陥ることはあり得ないなどと強弁し、自らの記憶を、自身に都合良く歪曲しているが、❹最初の串焼き店「とよかつ」(以下「本件串焼き店」という。)では、反訴原告(被告)が、反訴被告(原告)のために一升瓶のワインを注文せざるを得ないほどに多飲しており(乙4・7頁の写真参照)、かつ、❺本件寿司店においては、その店主が、聞き込み捜査にきた警察署・警察官に「二人で一升近く飲んだ」と供述するほどに「鯨飲」しており(甲19・124頁)、❻実際、反訴被告(原告)は、本件ホテルに向かう途上のタクシーの中で嘔吐しており(甲2)、❼本件ホテル内でも嘔吐しているのであるから(乙3)、本件寿司店から本件ホテルに到着するまでの間、反訴被告(原告)が酒を飲み過ぎて、酩酊していたと考える方が、格段に自然かつ合理的である。もとより、反訴被告(原告)は、本件寿司店では、店主と「さかなクン」との会話に夢中だったのであって(乙4・10頁以下)、その間、反訴被告(原告)は自ら手酌で飲酒し続けていたこともあって、同人に対し酒を飲むようにとすすめたこともない。

もし仮に反訴被告(原告)の主張、具体的には、①反訴原告(被告)は酒が非常に強く、かつ、②本件当日における反訴被告(原告)の飲酒量が酩酊してだらしなく、トイレで寝込むような量ではかったが故に、当該酩酊状態は、飲酒に因るものではない反面で、③デートレイプドラッグが使用されたという反訴被告(原告)が主張する仮定的事実を前提とした場合、本件寿司店のトイレの中で反訴被告(原告)が意識喪失に陥った原因としては、そのトイレの中に入った時点でデートレイプドラッグの薬効が発現したこと以外には考えられないことになるはずである。

ところが、一方、反訴被告(原告)から提出された証拠によれば、デートレイプドラッグの効果(意識喪失)の持続時間は、少なくとも「3~6時間程度」(甲22・3頁)であるから、今度は、反訴被告(原告)が援用するタクシー運転手の供述内容、具体的には、当日、本件ホテルに向かう途上のタクシー内で、「二人とも寿司が美味しかったというような話」をしていたこと(甲2)との間で、救いがたい矛盾を生ずることになる。何故なら、反訴被告(原告)の主張を前提とすれば、トイレ内で意識を失わせるといった態様の薬効が、タクシーに乗車中の時間帯でも持続していたことになるはずであり、この間、意識の存在を前提とする会話が成立しないはずだからである。

医学的にいえば、例えば、「ロヒプノール」(薬剤)には❶「眠気、起きているのが難しい状態」及び❷「記憶障害」等の薬効があるとのことであるが(甲22の2・2枚目)、同一の薬物=薬剤成分が同一人物に服用されれば、当然、その効果が作用・持続する間、その薬理効果も一様に生ずるはずであるから、ある時間帯 ― 本件寿司店を出るまで ― は、上記❶だけが「選択的」に発生といった、薬理効果の一部が限定的に生じ、その後の時間帯― タクシー乗車後― は、その薬理効果が(❶→❷へ)変化して、上記❶とは別異の上記❷という薬理効果の一部だけが別途「選択的」に生ずるなどということは、医学的・薬理学的にありえないはずだからである。

したがって、本件事実関係のもとでは、デートレイプドラッグの使用はありえない(なお、清水惠子教授の意見[甲24の1]は、あくまでも飲酒量等について、反訴被告の主張が正しいことを前提としたもので、前提において採用し難いものであるうえ、上記薬効の「変化」について何ら合理的な説明がなされていないし、単なる一般的抽象的な可能性を指摘したに過ぎないものである。)。

⑶ 強姦被害の虚偽性・妄想性

反訴被告(原告)は、平成27年4月4日午前5時ころの時点での準強姦被害及び強姦被害を分けて主張し(訴状9頁。仮にそれが真実であると仮定しても、法律的には、反訴被告が主張する同日午前5時頃の反訴原告の所為は一連の行為であるから、刑法上は強姦の包括一罪であり、民事上も、不法行為としては、強姦に吸収されるものとみるべきであろう。)、周知・後記のとおり自著「ブラックボックス」においても、同時間帯の性暴力被害の状況について生々しく具体的に述べているが、全てが反訴被告(原告)が後から「捏造」した「悪質な虚妄」であって、ストーリーとしても、反訴被告(原告)としては「脳裏に描く」ことさえもできない程度の内容で、支離滅裂である。

ア 4月4日午前5時の強姦被害が「虚妄」「捏造」である理由

反訴被告(原告)は、本件ホテルでの出来事の後、複数の医療機関を受診しているが、「客観的で動かし難い証拠」である各医療機関の診療録によれば、反訴被告(原告)は、当日午前5時前後の出来事について、全く記憶がなかったことが明らかである。

すなわち、❶平成27年4月17日(本件当日から約2週間経過)、まつしま病院(産婦人科)を受診した時点での問診記録によれば、反訴被告(原告)は、同病院を受診した経緯について、医師に対し「4月3日―4日にかけて、レイプ被害にあった(…、その間の記憶がなく、翌日も気分が悪かった)」云々と申告しており(乙8・4頁)、同様に、❷同年5月20日(本件当日から約1か月半経過)、まちどりクリニック(精神科)を受診した際も、反訴被告(原告)は、待鳥医師に対して、「Pt(患者=反訴被告)は、Al(アルコール)はかなり強い。気を失ったことはない。「5°頃(=午前5時頃)」、行為に及んだが記憶がない。」と申告し(甲25の1・22頁)、さらには、❸高輪警察署警察官の勧めにより、したがって、「犯罪捜査上の必要性を意識した上で」受診したはずの新百合ヶ丘総合病院(産婦人科)のカルテにおいてさえも、医師に対し「4月3日に被害」と申告している(乙9)。

上記のごとく、反訴被告(原告)本人自身が「当日午前5時頃の記憶のない(なかった)」ことを自認し、犯罪捜査の段階でも、同日午前5時の「強姦」被害については、殆ど記憶になく、殆ど意識さえもしていなかったはずであるにもかかわらず、「ブラックボックス」(甲19)49頁以下では性被害暴力の状況が具体的かつ詳細に叙述されているのであって、かかる具体的な記憶が蘇るはずもないことは自明の理である。

それ故、反訴被告(原告)が想い描く当日午前5時前後の出来事は、すべて「悪質な捏造」だということになる。念のため付言するに、反訴原告(被告)は、4月4日午前5時前後の時間帯での性交渉については、一貫してこれを強く否定しているところ、一般論として、準強姦を企図した犯人が、酩酊した被害女性をホテル等に午後11時前後に連れ込んだ場合、社会常識的にみて、当該犯行を決行するのは、被害女性が意識を喪失した酩酊状態が持続する深夜の時間帯のはずであって、被害者が翌朝の午前5時前後に酩酊状態から醒める時間帯に準強姦を(再度)実行するはずがない。まして、反訴原告(被告)のごとく社会的地位のある人物が、被害女性の「承諾」がない状況のもとで、自らの犯行を自認するに等しい裸体の状態で自らの裸体を被害女性の目の前に晒すこともありえない。

また、本件当時、反訴被告(原告)がタクシー内で嘔吐した事実については、反訴被告(原告)も、これを認めざるを得ないであろうが(甲2)、口内が嘔吐物で汚れた女性については、その女性が「意識的に」うがいをするか、口内洗浄をしたのと同様の状態―意識的行動が前提になる―(本件の場合でいえば、ミネラレルウォーターを飲むこと)が生じない限りは、どんな男性でもキスをしようなどとは思わない(甲37[反訴被告の陳述書]には、「被告(反訴原告)の顔が近づきキスをされかけた」との叙述がある。)。

ちなみに、反訴被告(原告)が、当時、4月4日早朝前後の事実経過を殆ど記憶してなかったことは、高輪警察署での取調べの際に、警察官から「(本件事件当日、自宅に)帰ってきたのは何時でしたか。」と聞かれて、反訴被告(原告)が「5時半です。」と供述したら、警察官から「違います。5時55分です。こんなんじゃあ訴訟を起こしても負けますよ。」と言われた旨の事情を、まちどりクリニック(精神科)でのSCT(文章完成法テスト)前に供述していたこと(甲25の1・8枚目)からも窺い知れる。

イ 強姦の被害状況にみられる支離滅裂

反訴被告(原告)の自著「ブラックボックス」によれば、反訴原告から受けた性暴力被害の状況として、次の叙述(甲19・50-51頁)が認められる。すなわち、反訴原告(被告)は、反訴原告(被告)に対し「トイレに行きたい」と言って、「トイレに駆け込んで鍵をかけた」後、「意を決して(バスルームの)ドアを開けると、すぐ前に山口氏(反訴原告)が立っており」、その後の反訴原告(被告)の所為、ないし反訴被告(原告)の状態を時系列で抜粋すると、❶「そのまま肩をつかまれて、再びベッドに引きずり倒され」、❷「体と頭は(ベッドに)押さえつけられ、覆い被されていた状態だったため、息ができなくなり、窒息しそうになった」、❸「必死に体を硬くし体を丸め、足を閉じて必死で抵抗し続けた。」、 ❹「頭を押さえつけていた手が離れ、やっと呼吸ができた。」❺「『痛い。やめてください』(との発言に対し)、『痛いの?』などと言いながら、無理やり膝をこじ開けようとした。」と叙述されている(甲19・50頁末行~51頁11行目)。

上記❶❷❹の各叙述からすれば、反訴原告(被告)は、背後から反訴被告(原告)の後頭部をベッドに押さえてつけいたことになるから、反訴被告(原告)は「うつぶせ状態」(後背位)のはずである。ところが、一方、上記❸❺の各叙述(反訴被告が必死で膝を閉じた状態で抵抗しているのに対し、反訴原告が、反訴被告の膝を「無理やり膝をこじ開けよう」)によれば、明らかに反訴被告は「正常位」の状態で抵抗していることになる。

以上のごとく、反訴被告(原告)の性暴力被害に関する描写は、加害者・被害者間の相互の位置関係が、「うつ伏せ状態」と「正常位」とが時間的に相前後して混在しており、支離滅裂である。この点、反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)の代理人から指摘を受けるであろう上記矛盾点を意識した上で、陳述書では、ブラックボックスが描写する「ベッド上での窒息状況」を説明すべく、「被告(反訴原告)の顔が近づきキスをされかけた時、必死に顔を背けたところ、私(反訴被告)の顔はベッドに押し付けられた状態になり、私は息ができなくなり窒息しそうになりました。この時、被告がどのように押さえつけているかはわかりません。」(甲37・9頁1行目以下)などと述べ、ブラックボックスの叙述(=供述)を変遷させ、上記矛盾点をなんとか糊塗しようとしている。

しかしながら、「被告(=反訴原告)の顔が近づきキスをされかけた時」は、当然、両当事者は、相互に顔面を向き合った「正対」関係にあるから、いくら反訴原告(被告)が「必死に顔を背けた」ところで、同人の胸腹部は上を向いている(仰臥位)のであって、「私(反訴被告)の顔はベッドに押し付けられた状態」にはなりえない。

そもそも、反訴被告(原告)は、陳述書の上記叙述部分で、自著「ブラックボックス」(甲17)との整合性を保とうとして、「顔面をベッドに押し付けられる態様」の窒息状況を述べているのであるが、実は、反訴原告(被告)がブラックボックスを出版したのは、平成29年10月のことであるから(甲17)、本件事件後、2年以上も経過した後である。ところが、その一方で、反訴被告(原告)は、本件当日から約1か月半経過した後の時期(平成27年5月20日)、反訴原告(被告)が「まちどりクリニック」を受診した際は、「(反訴原告から)上に乗られて(その手で)口を塞がれた時に恐怖」云々と述べていた(甲25の1・26頁「PTSDチェックシート」)のであるから―この場合は「正常位」が前提になる―、ブラックボックスの前記内容、及び陳述書(甲37)との間でも矛盾・変遷がある(注:「口を」(=対象を「口に限局して」)塞ぐ手段は、「手」を口に当てる以外には考えられず、ベッドに顔を押し付ける場合は、「顔全体が」塞がれるから、「口を塞がれた」とは言わない。)。

従って、前記アのとおり、反訴被告(原告)が前記各医療機関で述べたとおり、その当時から、当日午前5時頃の時間帯の記憶が忘失していたことに鑑み、反訴被告(原告)の陳述書の内容も、ブラックボックスの内容も全て、悪質な「捏造」であり「虚構」であるとみなすのが相当である。ちなみに、当反訴原告(被告)代理人は、過去20年以上にわたって医療過誤訴訟を重点に訴訟活動に取り組んできた経験をもち、本件訴訟についても、医学的観点から複数の医師(精神科医を含む)に相談しているが、反訴被告(原告)が、通常の女性であれば、最も「秘匿」したはずの性暴力被害情報について、自ら「実名」及び「顔面」を公然とさらけ出して、これを赤裸々に生々しく訴えていることは相談相手の医師らの間でも周知の事実であり、このような特異な反訴被告(原告)の行動、及びその際の反訴被告(原告)の「顔の表情」が「笑顔」であること等の諸事情から、同人について、「境界型のパーソナル障害」を強く疑う医師が当代理人の知人だけでも複数いることを言明してしておきたい。

人格攻撃に当たると非難される可能性があるため、不本意ながら各医師の名前を出すことはできないが、現実問題として、前記のとおり反訴被告(原告)は、出版物で支離滅裂な言動を公表し、のみならず、後記のとおり「客観的に動かし難い」証拠に基づいて、明らかに「虚偽」と断定・証明できる事実を、重畳的に複数、公表していること等からも、上記精神疾患を疑われてもやむをえないというべきであろう。

⑷ 被害関連事実にみられる「悪質な虚構・欺罔」の数々

反訴被告(原告)は、自著「ブラック・ボックス」(甲19)において、周知のとおり自身を「性暴力被害者」として「実名」で、「性犯罪」の事実経過を公表するにとどまらず、その「加害者」=「反訴原告(被告)」をも実名で告発するといった「前代未聞」の暴露本の体裁をとっているが、その内容を精査すると、随所で「虚構・欺罔」による「虚偽」と断定できる事実に基づく「悪質な脚色」が施されている。そして、これら「事実の歪曲」「欺罔」は、前記⑵の準強姦被害、及び前記⑶の強姦被害の虚偽性・妄想性・虚構性を強く裏付けるものである。

以下で、反訴被告(原告)名義の上記著作に認められる「悪質な虚構」ないし「事実の歪曲」「欺罔」を整理しておく。

ア 反訴被告は、ホテル内を「床に足をつけて」歩行

反訴被告(原告)は、本件告訴事件の捜査段階で、「捜査員A」から見せてもらったという、本件当日の本件ホテルの監視カメラで撮影されていた反訴被告(原告)の歩行態様・状態・状況について、「足が地につかず」歩行できなかったなどと叙述している。具体的には、①本件ホテルにタクシーに乗って本件ホテルに到着した際は、「山口氏は、やがて上半身を(タクシーの)後部座席に入れて私を引きずり出した。そして、歩くこともできず抱えられて運ばれる私の姿を、ホテルのベルボーイが立ったまま見ていた。」(甲19・79頁)、②「入口のカメラの次は、ホテルのロビーを横切る映像になる。山口氏に抱えられた私は足が地についておらず、前のめりのまま、力なく引きずられ、エレベーターの方向へ消えていった。」と描写している(同80~81頁)。

しかも、その映写現場[高輪警察署]に同席した「(親友の)K」は、「私の映像に戦慄し、吐き気を催したそうだ。」などと、読者の反感・嫌悪感を惹起することにおいて、十分な効果のある刺激的な叙述までもが付加されている(同79頁)。しかしながら、実際の映像(甲15~17)上では、上記①②の記述をもって描き出されている歩行態様・状態・状況は全く確認できない。すなわち、反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に支えられながらも、自立歩行していることから、上記①②の各叙述は、いずれも明らかな虚構ないし事実の著しい歪曲である。

このことは、反訴原告(被告)が、反訴被告(原告)に対し、上記①②の描写に該当する、監視ビデオ画像上の時間帯を特定・明示するよう「二度にわたって」釈明を求めた(被告第3準6頁「6⑴⑵」、第5準1頁)にもかかわらず、反訴原告(被告)が、求釈明に応ずることなく(求釈明に応ずることができない)、「沈黙」を続けていること(原告準⑷以下)、上記①②の場面の叙述について、訴状等では、監視ビデオ映像との矛盾がないように、曖昧かつ欺瞞的に「ぼかす」ような記述(4頁)に修正が施されていることからも明らかである。したがって、反訴原告(被告)が、自著・ブラックボックスを著述するに当たって、あたかも反訴原告(被告)が、反訴被告(原告)を強制的に本件ホテルに拉致・連行したかごとくに経緯・事情を描写することで、不正に事実を歪曲していることは、明らかである。

イ 反訴原告は、会食中「ビザの話」をしていた
反訴被告(原告)は、自著・ブラックボックスにおいても、本件訴訟においても、一貫して、本件ホテルに至る前段階である、本件串焼き店及び本件寿司店のいずれでも、同人が当該会合の目的とした「ビザ」の話が出なかった旨を主張しているところ(甲19・47~48頁、訴状4頁、原告準⑴3頁、同11頁、原告準⑷3頁[会合の目的])、これに対し、反訴原告(被告)の方では、一貫して、「ビザ」のことを話題にし、情報提供している旨の主張をしている(答弁書10~11頁、被告第4準3~4頁、7頁)。

ところが、実際には、反訴被告(原告)自身も、自著・ブラックボックスを著述する前の時点は、医療機関(精神科医)に対しては、意識を失う前までの間、「ビザ」の話が出ていたことを認めていたのであるから、上記各主張は、事実を不当に歪曲していることが明らかである(甲25[まちどりクリニック・診療録]2頁「ビザの話し合いをAと2人でした際に薬で眠らされ(?)…」)。 したがって、上記事実の歪曲は、反訴原告(被告)が、ブラックボックスの読者、及び本件訴訟関係者をして、あたかも「不純な動機」から(下心を隠して)反訴被告(原告)を食事に勧誘したかの如くに印象づけ、事実に反した不当な誤解を与えることを企図したものと考えられる。

ウ 「元検事の叔父」にみる「虚構」ないし「経歴詐称」

反訴被告(原告)の自著・ブラックボックスでは、「私には、元検事の叔父がいた。」(甲19・117頁)として、「元検事の叔父」を登場させ、法律的にもっともらしいことを語らせている。具体的・部分的に抜粋すると、「叔父は検察のOBとして、検察官が最初から『逮捕できない。任意で取り調べても必ず不起訴になる』などと断定することはありえない。弁護士とよく相談しなさい、と言った。」(同118頁)、「叔父は、とにかく裁判所が一度許可した逮捕状が簡単に執行されないなんていうことはないから、その逮捕状が今どこにあるのかを、弁護士の先生と一緒に警視庁に行って聞きなさい、と言った。」(同141頁)、「私がその時に弁護士を探していた第1の目的は、A氏が取った逮捕状の行方を探すことであった。…。一緒に警察へ行き、…、問い質してくれる弁護士を探していた。これは元検事の叔父のアドバイスだったが。」(同148頁)、「元検事の叔父が言ったように、A氏も、・・・」(同155頁)等の記述が認められる。

ブラックボックスの著者は、これら記述において、法律専門家としての資格をもつ「元検事の叔父」に刑事手続に関する実務の運用について語らせることで、反訴被告(原告)の上記各見解について、いわば「権威付け」をすることで、各記述について、迫真性があるかの如くに見せかけているのである。ところが、ここで、反訴被告(原告)ないしブラックボックスの著者(反訴原告は、法律について素人のゴーストライターの存在を疑っている。)は「致命的」な失敗を犯してしまっていた。

当反訴原告(被告)代理人は、本件受任後まもなくの時期、ブラックボックスを読み始めたところ、「山口氏は海外にいると言っているが、日本にいるかもしれない、と(反訴被告)が話すと、 (元検事の叔父は)飛行機の出入り、パスポートの関係で外務省に照会すれば、翌日には海外へ行ったかどうかわかる。」(甲19・118頁)との記述を読んだ途端、思わず噴き出してしまった。いうまでもなく、出入国管理は、法務省の管轄であるから、「元検事の」叔父がもし実際の人物であれば、そのような法律について「ド素人的」な間違いをするわけがない。反訴被告(原告)は、「元検事の叔父」といった虚構人物を登場させ、「フィクション」を描いていたことがバレてしまったのだ。

念のため、反訴被告(原告)の戸籍(乙12)をもとに、同人の父・伊藤●の【従前戸籍】である、父方の祖父・伊藤●●の改製原戸籍(乙13)、及び反訴被告(原告)の母・伊藤(旧姓●●)●●の【従前戸籍】である、祖父・●●の除籍謄本(乙14)を調査することで、反訴被告(原告)には、厳密には「叔父」など存在せず、上記登場人物として該当可能性のある人物として、父方の「伯父」伊藤●(昭和〇年〇月〇日生)及び母方の「伯父」●●●●()の二名を割り出した。その上で、当該両名に「検察官・検事」の履歴があるか否かを調査すべく、法務省大臣官房人事課に弁護会照会したところ、いずれも検察官・検事の履歴がないことが確定された(乙15参照)。

エ 「凄い衝撃」で「膝がズレている」の歪曲

反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)から性的暴行によって、右膝を負傷した旨を主張している。具体的には、その自著「ブラックボックス」には、①本件当日(4月4日土曜日)の「帰宅した(午後)十二時前」には、「右膝が激しく痛み、歩けないほどになっていた」(甲19・64~65頁)、②4月6日、(元谷)整形外科を受診した際、医師に「知人にレイプされた」とはいえず、「『仕事でヘンな体勢になったので。昔、バスケをやっていたから古傷かもしれせん。』と曖昧に説明した」のに対し、③(元谷)医師が、「激しい衝撃を受けて、膝がズレている。手術は大変なことだし、完治まで長い時間がかかる」と説明した(同66頁)の各叙述部分がある。なお、反訴原告(被告)の陳述書には、上記①の記述部分がない(甲37・11~12頁)。

上記書籍の読者が、上記各叙述部分を読めば、右膝に向けて、反訴原告(被告)が、激しい性的暴行を加え、その結果、「膝がズレる」(外傷性脱臼)の傷害を負った旨の印象を持つことは自明であろう。しかしながら、そもそも反訴原告(被告)が主張する、性的暴行は、「無理やり膝をこじ開けようとした。(このため、「膝の関節がひどく痛んだ。」)」(甲19・51頁、同旨甲37・9頁)という態様のものであるから、何故に「右膝に」限局した脱臼・疼痛等の症状が生ずるのかが不可解である。

なるほど、反訴原告(被告)は、4月6日、元谷整形外科を受診し、医師に対し膝の痛みを訴え、医師においても、「膝の不安定性(+)」、「膝蓋骨が横に動き易く、腰痛の原因になる」旨の他覚的所見をカルテに記録していることから(乙6)、膝蓋骨の脱臼を疑った形跡がある。しかしながら、実際に元谷医師が診断した病名は、「膝内障」、「膝挫傷」にとどまっているうえ、①外傷性の膝蓋骨脱臼であれば、著明な膝の腫脹を伴うが、同医師のカルテ記載によれば「関節内水腫(-)」との所見から、膝関節の腫脹が存在しなかったことが強く窺われること、②元谷医師が、外傷性膝蓋骨脱臼を疑えば、当然に実施するはずの単純X線検査を実施していないこと、さらに③外傷性膝蓋骨脱臼であれば、装具等の治療を実施するはずのところ、そのような治療がなされておらず、かつ、反訴原告(被告)の方でも、初診日以降、元谷整形崖を受診していないのであるから、元谷医師が、膝蓋骨脱臼を疑ったとしても、外傷性のものではなく、「反復性」のもの(先天的・解剖学的な素因により脱臼しやすくなった状態にもとづく脱臼)に過ぎない。

その一方で、反訴被告(原告)が主張する元谷医師の説明内容は、「激しい衝撃(=外力)を受けて、膝がズレている。」というものであるから、明らかに「外傷性」膝蓋骨脱臼である。したがって、反訴被告の主張する元谷医師の説明内容と、実際の所見とは整合せず、矛盾がある。

加うるに、反訴原告(被告)は、ブラックボックスでは、前記のとおり「右膝が激しく痛み、歩けないほどになっていた」との叙述を加えておきながら、その旨の症状を元谷医師に訴えていないし(乙6のカルテには、「knee pain(膝の痛み)」との記載しかない。)、そもそも、反訴原告(被告)からの性的暴行によって右膝損傷を覚えたのであれば、4月3日から翌4日にかけての間に何らかの外傷があった旨を訴えるはずのところ、カルテ上は、医師に「3月31日に変な姿勢で座っていて」 (乙6)云々と受傷日を特定して述べているのであって、性的羞恥心から前記②のとおり受傷機転の主訴を偽ることはありえても、受傷日までを偽る理由はないから、本件性交渉とは無関係の膝の症状について、偽って、性的暴行に起因する症状にすり替えて述べていることは明らかである(以上のうち、医学的考察部分については、乙5参照)。

オ 「妊娠の不安」を煽る欺罔・脅迫

(ア)客観的な事実経過

反訴原告(被告)の認識では、本件性交渉に際して、射精には至っておらず、そもそも反訴被告(原告)が妊娠する可能性などなかったが(乙3・13頁以下)、反訴被告(原告)の方では、「妊娠の可能性」を気にして、緊急避妊ピルの処方を受けている。これに関する客観的な事実経過を整理すると、次のとおりである。

① 4月4日午後2時5分頃、反訴被告(原告)は、「イーク表参道」(婦人科)にて、緊急避妊ピル(ノルレボ2錠)を内服した(乙7、甲4、甲5等)。

② 4月9日から3日間、出血(消退出血)があり(乙8・4頁、甲5。なお新百合ヶ丘総合病院では、消退出血の開始を4月7日として申告しているが[乙9・2頁]、記憶違いであろう。)、当該出血について、反訴被告(原告)自身においても、まつしま病院の医師に対し、「最終月経4月9日~」と自主申告していた(乙8・2頁)。

③ このため、4月17日、反訴被告(原告)が、まつしま病院(婦人科)を受診した際は、「妊娠検査」は行われず(これに対する反訴被告からの不服の申出もなく)、同病院では、淋菌・クラミジア等の感染症の有無のチェックと、外傷の有無のみが診察され、同日の内診で、外傷がないことが確認され、4月23日の受診の際、上記細菌感染についても、陰性であることが確認された(甲5、乙8・3頁以下)。
④ 5月7日、反訴被告(原告)は、警察官の勧めで、新百合ヶ丘総合病院(産婦人科)を受診したが、同病院のテストパック(妊娠検査)でも陰性が確認され、上記診療経過(緊急避妊ピル後の消退出血)から「妊娠の可能性はほぼゼロ」と診断された(乙9)。

(イ)医学的知見と、反訴被告(原告)の認識

周知のとおり、緊急避妊ピル(ノルレボ錠)を内服して、3日後ないし7日後の間に「月経のような出血(消退出血)」が認められれば、妊娠を否定できる(乙10、乙11)。したがって、4月9日、「月経」(消退出血)の開始を認識した反訴被告(原告)としては、その時点(4月9日ないし11日の時点)で、本件性交渉によっては妊娠しなかったことを知り得たはずであるし、少なくとも、4月17日、反訴被告(原告)が、まつしま病院を受診した時点で、産婦人科の医師からその旨を確認したはずである。

(ウ)反訴被告(原告)のとった行動(欺罔・脅迫)

しかるに、反訴被告(原告)は、上記(ア)②③④の事実経過を秘して、自著「ブラックボックス」では、「モーニングアフターピルは事件から数時間後に処方してもらってはいたものの、想定していた月経の日を大幅に過ぎていたのだ。」(甲19・87頁、同旨125頁)などと、産婦人科医師(まつしま病院)に自主申告した上記内容(4月9日から3日間、月経あり[乙8・2頁])とは異なる内容虚偽の叙述をした上で、反訴被告(原告)に対し、次の内容のメールを送信し、かつ、その事実を上記著書で暴露している。
① まつしま病院にて、「妊娠なきこと」を確認した4月17日の翌日に当たる)4月18日、「…意識不明の私に避妊もせずに行為に及び、 それ以降私はどうしようかという不安の中にいます。 山口さんは私が妊娠した場合のことをお考えですか? …、今は妊娠してしまったら働けなくなってしまうという恐怖でいっぱいです」(甲19・86頁、甲1の24)、

②(まつしま病院にて、「妊娠なきこと」を確認した後の)4月24日、 「まだ生理が来ていないので不安で仕方ありません。寝ても覚めてもこのことで頭が一杯です。…」(甲19・90頁、甲1 の26)

③(まつしま病院にて、「妊娠なきこと」を確認した後の)5月4日、 「妊娠と仕事の事で大至急お話したいので、連絡の取れる電話番号を教えてください」(甲19・105頁、甲1の28)、同日、「…妊娠の可能性があるので渡航の時期を延ばせませんか?」(甲19・106頁、甲1の29)

④(まつしま病院にて、「妊娠なきこと」を確認した後の)5月6日、「あの夜、山口さんに意識がないまま強制的に性行為を行われ、肉体的にも精神的にも傷つけられました。…、現在、生理が大幅に遅れ、妊娠という可能性が大きくなり、現実的な対処に早急に向き合わなければいけない今、山口さんからの誠心誠意のある謝罪、仕事、妊娠に対しての対応を早急にしていただかなければ、もう精神的にも限界で周りに助けを求めざるを終(ママ)えません。…」(甲19・108頁、甲1の22)如上の各メールは、前提事実を反訴原告(被告)にも、自著の読者に対しても偽りつつ(客観的には既に「妊娠の可能性」は否定され、反訴被告も承知していた。)、被害感情を前面に打ち出して、反訴原告(被告)に対し、その意思・認識に反し、準強姦の事実と、それに対する謝罪を求めるものであって、真の性犯罪被害者の行動とは全く相容れない。

以上のとおり「動かし難い客観的な証拠関係」から、「虚構」、「事実の著しい歪曲」を随所で指摘できるにもかかわらず、反訴被告(原告)は、「『ブラックボックス』は、原告が自らの記憶に基づいて真実を執筆したものである」と主張して恥じないのであるから、反訴被告(原告)においては、「裁判所を欺罔」することに何の躊躇も、良心の呵責も感じていないことは明らかである。この意味で、反訴被告(原告)は、倫理的な感覚が欠落・麻痺しているか、精神的な問題を抱えているものと考えざるを得ず、驚き呆れるばかりである。

⑸ 反訴被告(原告)の故意と動機

ア 責任原因(故意)

反訴被告(原告)は、本件性交渉があった時間帯の出来事・事実経過については、「意識喪失」ないし「ブラックアウト」を理由に積極的な主張をせず、沈黙を守っているが、4月4日午前5時頃の準強姦ないし強姦行為については、前記⑶で詳論したとおり、反訴被告(原告)が、本件ホテルで一夜を明かしてからまもなくの時期に受診した複数の医療機関に対し、その時間帯の出来事についても、「記憶がない」旨を明確に述べているのであるから、全て「捏造」だということになる。

しかも、前記⑷のアないしエで指摘した各「虚構」は、いずれもが、反訴原告(被告)が「性犯罪者」と仮定した場合に、その「悪質性」を際立たせるといった明確な意図・目的をもって、事実関係を歪曲させるものであることにおいて一致・共通している。したがって、これら「虚構」の事実主張は、単なる「思い違い」や「勘違い」では説明がつかない事実の意図的な「歪曲」であって、単なる「誇張」や「脚色」ではありえない。この意味で前記⑷アないしオの各「虚構」ないし「事実の著しい歪曲」は、反訴原告(被告)に対する報復・応報感情を完全に逸脱した、犯罪的意図(悪意)のもとに、反訴原告(被告)を貶め、ひたすら「悪質な性暴力犯罪者」に仕立て上げることを目的していることが明らかであって、その「害意」は、いわば確信犯的なものである。

したがって、本件の中核的な要素である、性犯罪行為に係る反訴被告(原告)の事実主張は、「故意」(害意)に基づくことが明らかである。

イ 虚偽申告の動機をめぐって

真実、性暴力被害を受けた女性であれば、通常は、性的羞恥心が障害して、よほど崇高な目的がない限り、自らの実名と顔を明らかにした上で、自らの恥辱体験を生々しく具体的に公表することは考えにくい。ところが、反訴被告(原告)の場合は、前記のとおり「真実は性暴力を受けた被害者ではない」し、後述のとおり「就職関係で既に御世話になり」、かつ、「4月4日以後も御世話になるはずであった」被害者の男性を「性暴力の加害者」に仕立て上げた上で、その実名や、本件ホテルに至った経緯等の諸事情までも、詳細に暴露・歪曲・公表し、前記⑷アないしオのとおり確信犯的な虚飾と事実関係の捏造・歪曲といった手段を弄して、世間を欺いて、社会に衝撃を与えたものである。

もとより、反訴被告(原告)が、自身の就業斡旋・アドバイス等で御世話になった恩人である反訴原告(被告)の、ジャーナリストとしての社会生命を奪うといった、いわば「恩を仇で返す」といった「究極の」暴挙を敢行した動機については、あまりに常軌を逸しているので、反訴原告(被告)及び同代理人の理解の範囲を超えている面があることは否定できない(精神疾患の可能性を強く疑わざるを得ない。)。しかしながら、反訴被告(原告)が虚偽・虚構の性暴力被害を世間に後記のとおり記者会見等のマスコミ報道やソーシャルネットワークを用いて流布・伝播させ、その過程で必然的に惹起された事態・結果・推移、具体的には、以下に摘示する諸事実からその動機・目的は、自ずと窺い知れるというべきであろう。すなわち、

(ア)「倒錯した」被害感情

反訴被告(原告)の、反訴原告(被告)に対する攻撃的な名誉活動の根底に「倒錯した」被害感情、すなわち「逆恨み」の感情があることは自明の理である。本件当日以後の当事者間におけるメールの交信経過から明らかなとおり、反訴被告(原告)は、4月6日午前に「山口さん、お疲れ様です。無事ワシントンへ戻られましたでしょうか?」(甲1の15)云々と、「親睦」のメールを送信していてところ、その後、態度を豹変させ、前述のとおり「妊娠の可能性がない」ことが医学的に確認された後でさえも「妊娠の可能性がある」などと、反訴被告(原告)が、「事実を偽った」悪意ある欺瞞的メールを送り続けた背景には、「相談相手」であった反訴原告(被告)を「交渉相手」として扱い、反訴原告(被告)の善意・誤解にもとづく心配を悪用することを厭わず、それに心理的抵抗を感じることもなく、交渉相手の誤信に乗じて「妊娠の可能性のあるレイプ被害」を訴えることも辞さないといった「被害妄想」が生じたことは明らかである。

反訴被告(原告)の上記「被害妄想」形成に至る心理的機序については、健全な常識的感覚からは理解に苦しむものがあり、何らかの精神疾患の介在を疑わせるものであるが、あえて反訴被告(原告)の心理機序を推察するに、反訴被告(原告)にしてみれば、自らのだらしない鯨飲・酩酊のために、就職活動の支援を仰いでいた反訴原告(被告)の前で醜態を晒し、恥じ入るばかりの迷惑をかけたことを契機として、汚名を挽回し、自己の就職活動を有利に展開するための足掛かりを確保するとともに、彼女自身が「失態を挽回できた。」という安心感を得たいがためのいわゆる「枕営業」的な動機から、自らの肉体を反訴原告(被告)に委ねることを咄嗟に思いつき、反訴原告(被告)との性交渉を強引に勧誘し、自ら身を挺して、それを受け容れたにもかかわらず、その後、反訴原告(被告)は、あろうことか反訴原告(被告)に対し下手にでるよりも、肉体関係(「妊娠の可能性」)をもったという既成事実を「逆手」にとって、これを悪用し、半ば脅迫・強要的な言辞・手段を用いた方が就職活動をより有利に展開できるといった邪念が生じたものと考えざるを得ない。

ところが、その後、就職希望先のTBS内で起きた反訴原告(被告)の左遷・辞職といった、反訴被告(原告)にとってはもとより、反訴原告(被告)にとっても、4月4日の時点では、全く「想定外」だった事態が生じたことから、反訴被告(原告)においては、TBSワシントン支局での就業希望に関する失望・挫折感と同時に、反訴原告(被告)への「逆恨み」感情が生じ、これらの鬱屈した感情が高じて妄想的な性暴力被害感情へと転化・変容・暴走していったものと推認される。

もとより、一般的には、うら若き「美人」が、マスメディアの前に実名と顔を晒して、涙ながらに性暴力被害を訴えれば、殆どの大衆は、反訴被告(原告)の方に同情し、(精神疾患に基づく被害妄想の可能性に想到せず、これを疑うこともなく)それが真実だと信じてしまうことは必定である。反訴被告(原告)においても、前代未聞の、いわば「体当たり」攻撃的な広報活動(反訴原告からみれば、「虚偽告発」)を行えば、― 特に、反訴原告(被告)は、「一部には」安倍政権と深い関係があるものと否定的な評価を受けていたこととも相まって ―、一斉に反政権寄りのマスコミの注目・関心を集め、反訴被告(原告)の社会的地位に致命的な打撃を与え、ジャーナリストとしての活動基盤を根底から失わせる事態に至ることは、当然に予見できたはずである。したがって、反訴被告(原告)による、反訴原告(被告)に対する一連の個人攻撃的な名誉毀損活動の根底に「逆恨み」の感情があることは明らかである。

もっとも、個人的な逆恨み感情(妄想被害感情)の回復・慰謝・満足だけの目的であれば、個人間の示談交渉で足りたはずであり、マスメディアを動員してまでして、大々的に公表するまでの説明は到底つかない。反訴被告(原告)の広報活動によって、「デートレイプドラッグ」という卑劣な薬物を使った「性暴力加害者」としての汚名・「濡れ衣」を着せられた反訴被告(原告)へのダメージ(反作用)があまりに過剰となり、バランスを著しく失するに至ることが必定だからである。

特に、後述の平成29年5月29日の司法記者クラブでの記者会見では、反訴被告(原告)は、自らの代理人弁護士(村田智子弁護士及び西廣陽子弁護士)を同伴して、自らの実名のみならず、反訴原告(被告)の実名を出して、レイプ被害を訴えたのであるから、反訴原告(被告)を社会的に抹殺するに等しい打撃を与えることになることは、当然に予見していたはずである。

(イ)政治目的(安倍政権への批判的言論によるダメージ)

たとえ「虚偽告発」であるにしても、準強姦罪も強姦罪も、本来は、個人法益に対する罪であって、個人的な性暴力被害の範疇にとどまるはずの性格の犯罪類型である。ところが、本件は、周知のとおり政治目的に悪用・転用されている。このことを象徴的に示すことが、反訴被告(原告)が東京検察審査会に申立てた審査申立書に、週刊新潮の週刊誌記事が添付されているということであり(甲7)、その大見出しが「『安倍総理』ベッタリの記者の『準強姦逮捕状』」とされ、中見出しとして、その大見出しの修飾語として付加された「『警視庁刑事部長』が握り潰した」といった、世間の反感を扇情的に煽る文字が連ねられていることである。ここでは、あたかも反訴原告(被告)が、安倍総理との個人的な関係から不法な働きかけのもとに、政治的圧力をかけて、中村 格 ・警視庁刑事部長(第2次安倍政権発足時の秘書官)を通じて、逮捕令状執行停止と犯罪事件のもみ消しを操作したかのごとくに事実関係が著しく歪曲され、印象操作が施されているのである。

そして、同旨の合理的な根拠を欠く偏向報道は、反訴被告(原告)の著作である「ブラックボックス」でも強調されているところである(甲19・131頁「成田空港で逮捕する」、同132頁「山口氏の逮捕に合わせ、成田空港で逮捕する…」、同133頁「衝撃の電話」、同134頁「ストップをかけたのは警視庁のトップです」、同188頁「当時の刑事部長は、中村格氏」、同212頁「菅(義偉)官房長官の秘書官として絶大な信頼を得てきた中村格刑事部長(当時)が隠蔽を指示した可能性が、…」、等々)。