lisanhaのPansee Sauvage

野生の思考

スローニュース2020/8/7

2020/8/6

 

速水:Slow News Report 今日は伊藤詩織さんとお送りします。今夜のテーマは「お寺のあり方 お寺のこれから」ということで、今日は皆さんの身近な存在…なのかな、そうでもないという人もいるかもしれないですけれども、お寺について考えていきます。メッセージを一つ読みたいと思います。「お寺といえば子供の頃、夏休みになるたびに近所のお寺の『禅の集い』という二泊三日の滞在型のイベントに参加したことを思い出します。内容は読経、境内の掃除、写経などを体験したり、子供向けに花火大会やちょっとしたゲーム大会などをしたりと、いつもと違う時間を過ごしていました。ただご飯の時間、食べ終わった食器にお茶を入れ、たくあんで拭き、それを自分が使用したお皿にした後、そのお茶を全て飲み干し、たくあんを残さず食べるのだけは、好き嫌いの多い私には苦行でした。その時に克服できた食べ物もできたり、大人になった今でもその時読経した般若心境だけはふりがながなくても読めたりと、今ではいい思い出です。いつか我が子達にも体験させたいけど無理かな」というメッセージいただきました。滞在型のイベントってここ10年くらいなのかと思ったら、結構昔からあったんですね。

伊藤:お寺ってお墓とかがあるから、子供だと怖かったり近寄りがたかったかなという思い出がありますね。

速水:肝試しとか、まさにお寺といえばというところもありますよね。

伊藤:そういう風に身近に泊まって滞在すると、また境内に遊びに行こうかなとか思えるかもしれないですね。

速水:今日のテーマは「お寺のあり方 お寺のこれから」ということなのですが、伊藤詩織さんが今関心を持たれて取材されているお寺。なぜお寺だったのか、この辺のお話を伺えますか。


コロナ禍で閉鎖されるお寺、開かれている教会

伊藤:今年に入ってお寺のご住職さん達とお話をするご縁に恵まれまして、今ドキュメンタリーのプロジェクトにカメラマンとして京都のお寺で参加させて頂いているんですけれども、その前に鎌倉のお寺のご住職さんとお話をする機会があったんです。お話を伺ったところ、鎌倉っていろんなお寺があって、参拝料をとって観光地化しているところもあるじゃないですか。やっぱりコロナの時にそのお寺は閉めていたんだそうです。でもそういった時に近所を散歩していたら、鎌倉って結構教会が多いみたいなんですけれども、教会は常に開いていたらしいんですね。それを見た時に、お寺のあり方って本当にこれでいいのかなと、数ヶ月間閉めていた間に色々考えた末に、また再オープンした時に参拝料をやめて、地域の人やいろんな人にとにかく来てもらいたいと思ったそうなんです。やっぱり参拝料を払っていただくとどうしても観光地的な感じになってしまうんじゃないかということで、まずそれをなくしたいと考え、そういった取り組みをされているという話を伺って、すごくなるほどなと思ったんです。確かに鎌倉や京都のお寺というのはもちろん観光客多いですが、お寺ってどういった存在だったっけ?って私も何か考えさせられたんですね。

速水:確かにコロナ禍に不安な人たちが集まる場所、そして地元の共同体みたいなものの中心にあるものが教会なんだという話の中で、観光地としてのお寺みたいなものは当然あって、そう考えると日本のお寺って時代に即して機能が変化していくわけですね。割とキリスト教の協会はどんな時代でも同じような役割を果たしているんだけど、日本の場合はそうではなくて、そこが逆に面白いところですね。例えば仏教の話で言うと、大仏って疫病が流行ったときに建立して、それで何か願い事をして流れを変えるものだったりしたわけですが、今僕らはお寺に何を求めるかというのって人によって違うし、そういう意味では面白いテーマだなと確かに思いました。

伊藤:そうですね。確かにまあ宗教が違いますし、教会と比べるものでもないかもしれないですけども、ヨーロッパに住んでいた経験があったので、やっぱりちょっと疲れたり、なんか座りたいなと思うと教会に行ってました。祈ることはしないけれども、ただちょっと心を落ち着かせたりとか、暖を取ったりだとかしてましたね。ニューヨークの五番街にも大きな有名な教会がいくつかありますけれども、そういったところでも常にオープンでホームレスの方が休まれていたり、オープンに存在する公共のものというイメージがありましたが、確かに寒くなったり疲れたりして、お寺でちょっと腰を下ろそうかなって思わないですよね。お寺との関わり方って、今まで観光として訪れることしかなかったですね。


コンビニよりもたくさんあるお寺

速水:ちなみに現在のお寺の現状についても振り返っておきたいんですが、文化庁宗教年鑑によりますと。全国にある仏教系寺院の数77206です。約55000といわれるコンビニエンスストアよりも多いんです。

伊藤:京都だったりすると、本当に住宅街でも、家を挟んで隣同士がお寺だったりとか、すごく密集している地域もありますよね。

速水:僕が住んでる文京区なんかは、江戸時代に、火災であちこちにあった有名なお寺が焼けちゃった時に、一挙に文京区に造られたので、ある場所ではもうずっとお寺の隣もお寺、さらに隣もお寺なんていうところもあります。そして、今時お寺もいろんなことをやっていて、例えば宿泊施設を作ってゲストハウス運営しているお寺もあれば、カフェをやっているお寺もあるんですが、お寺の変化みたいなこともちょっと今日のテーマになるかなという気がします。一通メールを挟んでみたいと思います。「コロナが流行る数年前からIT化が始まっていたように思います。というのは、数年前に亡くなった叔父の葬儀の際に、経済的理由から、いとこはインターネットで少しでも安くやってくれるお坊さんを探して頼んでいました。また夫の実家にいつも来ていただいているお坊さんから、今夏のお盆のキャンセルの連絡が来ました。その際の余談で、先日の宗派の集まりはオンラインだったと伺いました。お坊さん業界にもITの進化を感じずにはいられず、コロナ禍の今、オンラインお墓参りというのも常識になる日が来るかもしれません。味気ないですけどね」というメッセージもいただいています。時代の変化に即して変化するものがお寺という側面もありますよね。そもそもこんなご時世なので、実際に集まったりすることができないからという部分もあるんですけど、それ以前からお寺は色々変化している部分もありますよね。

伊藤:そうですね。お寺であったり、葬儀の仕方であったり、最近だとビルの中にお墓があって、エレベーターで仏壇とかお骨が入れられるシステムだったり、また樹木葬だったり散骨を選ばれる方もいますよね。

速水:「千の風になって」という曲が10年くらい前に流行りましたが、死んだらお墓に埋められるんだということではなくて、海に撒いて欲しいとか、これ本当に手続き色々大変だったりするんですけれども、死生観自体が変わってきていますよね。そしてお寺の檀家の数も、先ほど77000のお寺があるといいましたけれども、そのうち2万以上は後継者不足で、住職がいない無住寺院になっています。地方のお寺なんかは人口減の中で維持できなくなっているみたいな話もありますね。しかし一方では、御朱印とか、パワースポットという形で非常に注目されていたりもします。お寺が流行ってるのか、流行ってないのかみたいなのは、同時進行みたいなところもあるのかなとも思います。メッセージがいろいろ来ているので読みながら進めますが、「私はお寺に払うお金の額がわかりません。いわゆる“お気持ち”というものですが、それが正しいのかどうか。うちの母親は私から見ると異常なまでにお寺への対応に気遣っていて、お線香でいくら、読経でいくら、卒塔婆でいくらという形でお渡ししています。非常に気を使って払っています」 みたいなメッセージも来ています。卒塔婆ってわかりますか?お墓に立っている文字が書いてある木の札ですね。あれって今、卒塔婆プリンターというのがあって、かつては手で書いていたんですけど、今はプリンターで印刷できたりする仕組みがあるんだそうですよ。

伊藤:“お気持ち”ってスタンダードな額がおそらくあるんでしょうけど、いくらかわからないですね。お布施いくらなんでしょうね。

速水:そこを先程の人口減の話と結びつけると、10年前くらいかな、ここから先亡くなる人が多いから、葬式バブルがくるんじゃないかなんていう話があったんですが、実際には葬儀はどんどんシンプルになっているので、いやそれはないよみたいな話なんかもあったりします。一通またメッセージを読みます。「以前お寺にジャズのライブを聞きに行ったことがあります。普段はお経が響く本堂でジャズ。不思議とマッチしている気がしました。ここ数年、少子化や葬儀の多様化でお寺自体の人数が減っている気がします。お寺も新しいことに挑戦しないと駄目な時代かもしれませんね」というメッセージなんですが、お寺にも何か新しい動きであるとか、世代交代とか、新しい流れってたくさんありますよねという話についてもお伺いしたいと思うんですが。


お寺はこの先どうあるべきなのか

伊藤:ちょうど今取材をさせて頂いているお寺が8年後くらいに世代交代があるんです。今いろいろお話を伺っているんですけれども、そのお寺の現在の住職はそのお寺のご出身の方ではなく、他のお寺から来たんですね。結婚されてそこの住職になられたんです。つまり女性が住職にならなかったんですよね。そのご住職には四人のお子様がいらして、長女次女、その下2人が男の子なんですけれども、やはり3番目の男の子が生まれた時に、あなたがお寺を継ぐんだということが当たり前になっていたと。でも長女の方はすごく意欲があって、自分が住職になってもいいとずっとおっしゃっていた方だったんですよね。まあ今は前向きに一緒に頑張りましょうという形になっているんですけど、やはり性別で決められてしまって、まだまだそういった認識があったりします。また子供達の世代が今の住職、お父さんに対して、もっとお寺を開けたほうがいいということで、ヨガのクラスをしてみたりだとか、子供に向けて世界中のいろんな宗教の絵本を集めて子ども図書館を開けていたりだとか、少しずつお寺をオープンにするということをやっているんですけれども、やっぱりそこにも今のご住職とのぶつかり合いがあったり、その後にある理解だったりというのを今拝見させていただいています。

速水:非常に今の話面白いなと思ったのは、宗教って古くからの伝統を受け継ぐ部分というのがもちろん中心にあるわけですよね。○○時代から続いていますよみたいなものがあって、そこの地域に根付いている一方で、それこそ寺子屋みたいな教育を担っていた時代もあるし、僧兵なんか戦国武将と対等に戦うような勢力もあった時代もあって、変化してきていると。その中でお寺の新しい世代の中には、オープンなお寺ということを課題として考えている中で、職業としての男女のジェンダー差みたいなことももっと平等にしていった方がいいんじゃないかとか、新しいものを受け入れるものと古いものを継いでいくというものが今まさにその両方がお寺の中で求められているわけですね。

伊藤:そうですね。今実際に8万件近くの全国のお寺の中で、2万ヵ所以上が後継者不足というお話も出てきましたが、もしかしたらジェンダーの話も絡んできている問題なのかもしれないですよね。

速水:もちろん仏教にも尼僧という女性の聖職者もありますが、それはいろいろお寺ごとの違いみたいなものもあるんでしょうし、新しい住職の方々の考え方次第な部分もあるし、先ほどヨガという話も出てきましたが、もう一通メッセージを読んでみたいと思います。「秩父の山奥の太陽寺に何度か泊まりに行ったことがあります。お寺でのヨガをしたくて行ったのですが、ヨガの時間以外は何をしてもよくて、好きなだけ写経をしたり、座禅をしたり、散策をしたり、電波がないので何もせずにのんびりしたり、デジタルデトックスをしに来る人がいたり、外国人の方も多くて、江戸時代からの建物も風情があってとても良かったです。一番良かったのはご飯が美味しかったことです」というメッセージです。

伊藤:素晴らしい楽しそう!ネタの問題とか誹謗中傷で悩んだときはそこにデジタルデトックスに行こうかな。

速水:デジタルデトックスというカタカナのものをお寺でやっているというのは面白い気もするんですが、たしかに電波を切るためには山奥のお寺とかに行かなきゃいけないですよね。あとお寺でやっている断食みたいなイベントとかもよく聞きますよね。どうですか今日の話、伊藤さんのこれからの取材の中で役に立ちそうなアイデアはみたいなのありましたか。

伊藤:たくさんありますね。今日色んなお話を伺いして、取材させていただいているお寺の中でのディスカッションだったり、どういう風にやっていけばいいのかというところのヒントがたくさんあったように思います。今ご飯が美味しかったという事で思い出したんですけども、 Netflix の「シェフのテーブル」という番組がありまして、そこに出てくる韓国の尼さんがいるんですね。その番組は世界中の素晴らしいシェフたちを取り上げるんですけれども、彼女はシェフじゃなくて尼さんなんです。チョン・クワンさんという方なんですけど、彼女は料理をすることは瞑想することですと言っていて、そこでやっぱり食を通して自由だったり、仏教と生きていくことに対して向き合う、それをシェアするということを彼女はされているんですね。こういった事って日常に在るべきものなんだなと思いましたね。

速水:料理と瞑想。確かにそこが結びつくのは面白いなと思いました。今の話にちょっと関係しているかなとも思うものがあって、メッセージ読みます。「私の実家はお寺です。父は38代目の住職です。長年あと継ぎ問題がありましたが、今は檀家数も増えています。15年前に檀家さんの協力のおかげでお寺も改装しました。新潟の田舎なので、今流行の散骨、樹木葬などはないですが、やはりに先祖代々のお墓を守る姿勢は世代交代しても変わらないようです」最後になりますけど、お寺の本質みたいな物を勝手に外部から言うわけにはいかないですが、僕らの日常も変わっていく中で、お寺の機能も変わってもいいんだけれども、変わるもの、変わらないものがあるなと思いましたし、お寺を通して、僕らの死生観、人生観みたいなものも知りたいなと思いました。今日は「お寺のあり方、これから」について皆さんにも参加して頂いてお送りしました。

 

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